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Thursday, March 31, 2022

資源や原材料の調達網に打撃 エネルギー、自動車、物流……日本を襲うコスト増とモノ不足 - 日経ビジネスオンライン

資源大国ロシアによるウクライナ侵攻が、日本の産業界を大きく揺さぶっている。エネルギーや原材料の調達に綻びが生じ、企業はコスト増やモノ不足に苦しむ。事業環境は激変し、日本企業はいや応なしに混迷の時代への適応を迫られる。

エネルギー
資源高騰、国内電力価格に波及

 「福島第1原発事故のときは国内だけの問題だったが、今回は世界規模で危機が拡大している。いつ終息するのか、まったく見えない」。ある大手電力関係者は不安げに話す。気がかりなのは、LNG(液化天然ガス)の高騰だ。日本は電源構成のうちLNG火力発電に、最も比率が高い37%を依存している(2019年度)。

 ロシアによるウクライナ侵攻が起きる前から状況は厳しくなっていた。欧州の天然ガス価格の指標である「オランダTTF」の翌月渡し価格は、21年の年初に1メガワット時当たり20ユーロ(約2650円)前後だったのが、10月上旬には約6倍の120ユーロ近くまで跳ね上がった。この時点で欧州勢は世界からのLNG調達へと動き、日本勢とはち合わせする機会が増えたという。

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 高騰しているのはLNGだけではない。3月23日時点でアジア市場の指標となる中東産ドバイ原油のスポット価格は110ドル台前半だが、同月上旬には一時140ドルに迫った。オーストラリア産の石炭のスポット価格は21年夏の3倍超に達している。「世界的に天然ガスが不足し、一部で石炭火力発電の稼働が増えているため」と電力会社幹部は指摘する。

 エネルギー価格の値上がりの背景には、「新型コロナウイルスの感染拡大や脱炭素の流れで、世界的に資源開発が抑制されてきた」(日本エネルギー経済研究所の小山堅専務理事)といった事情もある。

 エネルギーを輸入に頼らざるを得ない日本にとって、事態は深刻の度を増すばかりだ。化石資源の高騰はそれを燃料として生み出される電力の値上がりに直結。産業界も家計もエネルギー高騰の影響を避けては通れない。

 すでにこの1年で国内の電気料金は平均約3割も上昇し、過去5年で最も高い水準で推移している。

電気代、5兆円超増の試算も

電源構成の4割をLNG火力発電に頼る日本。今後、輸入価格上昇が電気料金に反映される(写真=Shutterstock)

電源構成の4割をLNG火力発電に頼る日本。今後、輸入価格上昇が電気料金に反映される(写真=Shutterstock)

 燃料価格の変動で電力会社の業績が左右されないよう、電気料金を算定する際に使われるのが「燃料費調整制度」だ。燃料価格の上昇局面では3カ月遅れで顧客に負担を求める。

 22年度について、みずほ証券の新家法昌シニアアナリストはLNGが100万BTU(英国熱量単位)当たり17ドル、原油価格が1バレル110ドルで推移すると、国内の家庭や企業が支払う電気料金は年間で3兆8000億円増えると試算する。もしLNGが23ドル、原油価格が150ドルにそれぞれなれば、負担増は5兆3000億円になるという。

 さらに、燃料高騰が長引くようだと現実味を帯びるのが、政府認可が必要な料金改定だ。燃料費調整制度による値上げとは異なり、電力会社にとっての「伝家の宝刀」といえる。顧客負担を強いる代わりに、電力会社は給与カットなどリストラ策を講じて経営効率化を図ることが求められる。

 過去、電力各社が料金改定による値上げをしたのは1970年代~80年初頭の石油危機後と、2013~15年の福島原発事故後の主に2回。福島事故後は、例えば関西電力は年約2100億円、九州電力は同約1500億円のコストを削減した。料金改定を経験した電力会社担当者は「顧客反応は急激に悪化し、痛みも伴うためできれば避けたい」と語る。

 そんなところに重なったのが、災害によるエネルギー不安だ。3月16日に起きた福島県沖地震により、東北電力や東京電力グループの複数の火力発電所が止まった。21日には経済産業省が東京電力管内について「電力需給逼迫警報」を初めて出した。10%程度の節電に成功しない場合には停電に追い込まれるシナリオさえ視野に入った。

 「ウクライナ情勢には可能な限り人道的な政策を打つべきだが、我々がエネルギー不足に陥ると外国への支援まで困難になってしまう」。3月下旬、ある政府関係者は苦しい胸の内を打ち明けた。稼働できる火力発電所への依存が高まる中、その燃料が調達できなくなれば産業にも生活にも影響が出る。

 悩ましいのはロシア極東での資源開発事業「サハリン2」の扱いだ。ロシア初のLNGプロジェクトで、同国の国営ガスプロムが約50%、英シェルが約27.5%、三井物産が12.5%、三菱商事が10%を出資してきた。ロシアのウクライナ侵攻開始4日後、シェルは撤退を表明した。

 日本に対し年約600万トンの供給力があり、LNG総輸入量の1割弱を占める。政府内では「これほどの量をすぐ代替するのは現実的に困難」との声が上がる。岸田文雄首相も3月16日の記者会見で「長期的に低価格でエネルギーを調達できる、日本が権益を持つプロジェクト」と指摘し、活用を続ける考えをにじませた。

 産業界や国民生活への影響を考えれば、エネルギー分野でロシアとの関係を断ち切るのは容易ではない。日本はエネルギー安全保障とロシア制裁の間で厳しい選択を迫られている。

(中山 玲子、小太刀 久雄)

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