事故や病気で手足を失った人たちにとって、義肢と呼ばれる義手や義足は「第2の手足」だ。そうした義肢の材料を製造し、全国の義肢装具士に届ける小原工業(東京都世田谷区)は今、原材料価格が高騰し、仕入れ先の廃業にも直面している。経営環境は厳しいけれども、終戦翌年の創業当時から同社が貫くある決意とは―。(石川修巳)
日常生活に必要な義手や義足は、購入費の原則9割を公費で負担しており、2020年度の購入決定件数は5150件。切断原因の多くは労働災害、交通事故による外傷だが、糖尿病に伴う血管障害なども急増しているという。
義肢は患者の体格やニーズに合わせ、国家資格の義肢装具士が製作する一点物だ。同社は義肢を支える筋金など「半完成品」を製造し、全国約700カ所の義肢製作所に提供している。
創業は1946年。初代の故小原正次郎さんは、戦争で手足を失って悲しむ人々を目の当たりにし、こう決意したという。「大切なものをなくされた方に、もう二度と悲しい思いをさせてはならない」
◆材料メーカー、国内にわずか2社
義肢材料メーカーは国内にわずか2社で、今では同社しか製造していない部品もある。秋山七奈子社長は「患者や義肢装具士が求めているものを、きちんと形にできる会社でありたい」と語る。その積み重ねこそが、創業理念の継承につながると信じている。
しかし経営環境は厳しい。主な材料のアルミ価格は2倍近くに高騰。義肢用部品の価格は国が定める仕組みのため、すぐに価格転嫁はできない。仕入れ先の廃業も増え、部品を内製化できる3D金属プリンターを新たに導入した。
ほかにひざ痛を改善する靴の中敷きなど、一般向けの商品開発を強化している。片手や軽い力で簡単に操作できるのが特徴だ。「ずっと体に不自由を感じる方たちと向き合ってきた視点を生かして、新しい快適さを世の中に提供していきたい」と秋山社長。
義足の利用者がおしゃれを楽しめる靴下も開発中だ。「私たちの業界にも、御社のすてきなソックスがあったら利用者は喜ぶと思うんです」。2年前、秋山社長が靴下大手タビオ(大阪市)にそう直談判し、共同開発がスタートした。
抗菌・防臭とともに、流行色も取り入れてデザイン性を重視。「いよいよ、すてきな商品ができそうなんです」と声を弾ませた。
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