「年収の壁」支援の注文も
県最低賃金が十月以降、現行の八百八十八円から九百三十一円に引き上げられる見通しだ。福井労働局によると、引き上げ額四十三円、引き上げ率4・84%は前年(三十円、3・50%)を大きく上回り、三年連続で過去最大を更新。杉本達治知事が北陸三県内の格差是正を、答申内容を協議中の福井地方最低賃金審議会に要請する一幕もあった。初の九百円台が県内に広げた「波紋」を追った。
「過去最大の上げ幅と言っても四十三円。食品もガソリンも値上がりしている。ないよりはいいけど、焼け石に水といった感じ」と、飲食店パートの福井市の女性(57)。現在の時給は九百円だが、「物価高騰を考えると、千円でも足りない」と不満そうだ。
県最低賃金は、公労使の代表委員が七月二十六日から審議を重ねた。最低賃金法で定める「労働者の生計費」「賃金」「通常の事業の支払能力」の三要素に、今回は「地域間格差」が加わった。
田原孝明局長への答申を終えた新宮晋会長=県立大教授=は「これまでも地域間格差について議論はしてきた。連合福井や福井弁護士会に加え、今回は知事からも要望があった」とコメント。若者や外国人材の流出防止につながり、長期的には県内事業者の利益に通じるとの展望を示した。
石川県で示された最低賃金は四十二円増の九百三十三円、富山県は四十円増の九百四十八円。格差はわずかに縮まったが、経営現場からは「各地域の経済力や産業構造を考えるべきだ。まず最賃の格差是正をというのはおかしい」「そもそも物価が違う」との声が上がる。県経営者協会の山埜浩嗣専務理事は「消費者物価も上がったが、それ以上に企業物価も上がっている。特に中小・零細はすべてが価格転嫁できているわけではない」と話した。
カーテン製造などを手がける坂井市の縫製会社は、パート従業員を時給八百九十~九百円で募集中。生産管理責任者の男性(50)は「最賃水準だけの問題ではない。全員の給与を見直さないと。最賃は毎年上がって、マンパワーでやっているうちのような会社は本当につらい」と明かす。高騰する原材料費や電気料金と人件費の板挟みだ。
県内でコンビニエンスストア六店舗を運営する男性(56)は「旦那や親の扶養に入っている女性や学生が、働く時間を減らすかも」と「年収の壁」問題を懸念。今は時給八百九十円からだが、十月には引き上げるつもりだ。「最低賃金が上がれば、社会保険料や雇用保険料の会社負担も上がる。地域の実態に即した支援策を」と、注文を付けた。 (北原愛)
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