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Monday, October 3, 2022

老舗そば処が苦渋の値上げ、原材料や洗剤まで価格上昇…「創業以来最大の試練」[値段の真相]<1> - 読売新聞オンライン

 「もう手の打ちようがない。間違いなく、50年前の創業以来、最大の試練です」

 東京都内に6店舗を構える老舗そば (どころ) 「かめや」の荒川 雄行(かつゆき) 代表(66)は、跳ね上がる原材料の伝票を前にため息をついた。食用油は3年前と比べて1・6倍、そば粉と小麦粉を配合したミックス粉は1・2倍に上昇。さらに割り箸やかつおぶし、業務用洗剤に至るまで値上がりしている。

 かめやでは4月、そば・うどんのメニューを一律20円、10月にはかき揚げを10円引き上げた。野菜のかき揚げと温泉卵がのった看板商品「元祖天玉そば」は30円上がり、店によって税込み460~480円になる。荒川代表は言う。「本当はもう少し上げたい。でも、お客さんだって財布の中は厳しいから」

    ◇

 エネルギーや原材料価格が上昇し、企業や事業者の経営を圧迫する。賃金が上がらない家計も苦しい。日々目にする値札には、それぞれの思いや事情が交錯する。値上げラッシュの背景にある「値段の真相」を探った。

 サラリーマンが行き交う昼時の東京・神田。「かめや・神田東口店」では次々に訪れる常連客らが、カウンター越しに500円玉を手渡す。店員はおつりを返すと、大きなかき揚げと温泉卵が入った名物・元祖天玉そばをさっと出した。週に1度は訪れるという会社員男性(35)は「給料は変わらないのに身の回りの値段がじわじわ上がっている実感がある。今時500円でおつりが返ってくるのはありがたい」と話した。

 名物メニューが1杯、480円。かけそばは310円。いずれも4月に比べて20~30円高い。「幾ら値上げすればいいのか」。にぎわう店の裏側で、経営側は苦しい判断を迫られた。

 コロナ禍により減少した客足が戻りきっていないところで、エネルギーや原材料価格の高騰に見舞われた。足元では輸入物価を引き上げる円安が急速に進み、追い打ちとなっている。

 「本当は40円以上、上げたい」。店を運営する「かめや」の荒川雄行代表はこう打ち明ける。20~30円にとどめたのは、消費者の懐に配慮して、できるだけ多くの客を呼び込みたいからだ。

 そばやうどんは自家製麺で、食用油や小麦粉は直接仕入れや一括購入でコストを減らす。懸命の取り組みが続くが、限界もある。値上げを見送っていた単品の天ぷら価格を、10月1日に10~20円引き上げた。

 「自分たちの努力だけではどうにもならない領域に入っている。いつになったら抜け出せるのか、先が見えないのがつらい」

 荒川代表が苦しい胸の内を明かす。

    ◇

 原材料価格の高騰には、様々な要因がある。

 そばの主原料のソバの実は国内消費量の約6~7割を輸入に頼る。農林水産省によると、2021年の輸入先は玄ソバ換算で中国が約65%、米国が約15%、ロシアが約14%を占めた。

 ソバの価格が上がったのは、中国からの輸入が大きく減り、調達不安が広がった影響が大きい。米中対立が続くなか、中国はトウモロコシや大豆の対米依存度を引き下げようと、補助金を出してソバからの転作を進めている。関係者によると、日本での中国産玄ソバの流通価格は2年前と比べて3~4割上昇した。

 さらには、ソバの一大生産国・ロシアが2月にウクライナに侵略し、供給が減るとの懸念が一段と高まった。

 それだけではない。コロナ禍後の経済回復に伴い、世界で荷動きが急増し、物流網の混乱が続く。そば粉大手の日穀製粉(長野市)が、海外産のそば粉を6月から1キロあたり50円引き上げたのは、ソバの価格上昇に加え、輸入に伴う海上運賃がコロナ禍前の5倍近くになったためという。

 安さが売りのそばチェーンでは、値上げが相次ぐ。ダイタンフードが運営する「名代富士そば」では、昨年まで1杯310円だったかけそばが360円になった。ゆで太郎システムが展開する「ゆで太郎」は、6月にかけそばを360円から380円に値上げした。日本の日常食と言える大衆そばも、国際情勢と無縁ではいられない。

 無論、値上がりしているのはそばだけではない。バイオ燃料の広がりで大豆や菜種の需要が増え、食用油の価格が上昇。世界的な天候不順も多くの食料価格を押し上げる。東京商工リサーチによると、今年に入って9月上旬までに値上げを実施した外食チェーンは、大手122社のうち約6割の71社に上った。

 重くなる負担に、どう対応するか。企業や事業者、消費者が頭を悩ませる状況が、まだしばらくは続きそうだ。

 消費者の負担感はどの程度増しているのか。家計簿アプリを運営する「マネーフォワード」の協力を得て、利用者に取材した。

    ◇

 「気がついたら全ての物が値上がりしている。色々な物がじわじわ値上がりしていて、なかなかお金が使えない状況です」

 東京都中央区に住む派遣社員、中田千津子さん(49)は嘆く。中田さんは小学4年生の長男(9)と2人暮らし。育ち盛りの息子を抱える中、物価高が家計を圧迫している。

 「10円、20円の値上がりでも全て含めれば月数千円の負担増になる」。一つの商品の価格を細かく比較し、スーパーなどをはしごして最安値のものを買うようになった。息子の教育費が増えると考え、もともと出費を抑えてきたが、物価高でさらに節約を強いられている状況という。「旅行や外食などもってのほか。将来への不安で、節約することしか頭にない」

 中田さんは時給制の派遣会社に勤務しており、今春の契約更新で時給が増え、手取りで30万円程度、年収が増える計算になるという。しかし、物価高による負担増が賃金の上昇分を大きく削り、「賃金が上がった実感が全くない。時給が据え置かれた昨年よりも生活がきつい」という。中田さんの現状は物価上昇に賃金の伸びが追いつかない厳しい現実を映し出す。

 1人暮らしの東京都世田谷区、フリーランス 丸地紘揮まるちこうき さん(25)も負担を感じている。3食をコンビニで買って済ませることが多いという丸地さんは「物価高で1日の食費が200円上がった感覚。月にすると6000円。簡単に稼げる金額ではない」と話す。

 フリーランスで営業代行の仕事をする丸地さんは物価高による負担増を受けて、新たな仕事も請け負うようになった。「お金のことを考えすぎると動けなくなるから、なるべく考えないようにしている。それでもストレスがかかる」。物価高はあらゆる世帯の生活を着実にむしばんでいる。

 現在の物価上昇が年末まで続いた場合、家計の出費はどれくらい増えるのか。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストの試算によると、2人以上の世帯では今年1年間で、前年より11・7万円の負担増になる。単身世帯も6・5万円増える。

 「2人以上世帯」の内訳をみると、食料関連の負担が約4・5万円増と最も大きい。電気、ガスなどの光熱費が約3・9万円、ガソリンは約4000円増える。いずれも生活に欠かせず、家計には重い負担になる。

 食料を詳しくみると、輸送費の上昇や円安などを受けた値上がりで、「魚介類」(8200円増)の負担増が目立つ。原材料費の上昇などにより、お弁当やおにぎりなどの「調理食品」(7400円増)、パン(3900円増)の負担も大きい。食卓に欠かせない「野菜・海藻」(3400円増)も天候不順などで値上がりしている。

 携帯電話通信料については、携帯各社で割安な料金プランの導入が相次いだことから負担は減った。とはいえ、食料や光熱費を中心に価格上昇が激しく、その効果は打ち消される形になっている。

 熊野氏は11万円超の負担増について「節約ではとても補いきれない金額で、家計への打撃は大きい」と指摘する。今後についても「一度、値上がりしたものはなかなか値下がりしない。物価上昇率が緩やかになることはあっても、一定の上昇は続くとみられ、家計にとっては苦しい状況が続く」と話す。

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