最低賃金(最賃)の議論がヤマ場を迎え、25日にも引き上げの目安額が決まる。今年は物価高騰の中で大幅な引き上げが予想されるが、原材料高で中小企業は賃上げ原資の確保が徐々に厳しくなってきた。専門家からは、産業別に最賃を設定して業界の状況に合わせて引き上げのペースを変える案も出ている。(山田晃史)
最低賃金 法律で決められた労働者の賃金の下限。都道府県ごとに時給で示される。労使の代表と有識者でつくる中央審議会が7月中に引き上げの目安を示した後、夏の各都道府県の審議会を経てそれぞれ決定。毎年10月ごろに改定される。最賃以上の賃金を支払わないと、経営者に罰金が科される。
「人手が足りないけれど、最賃が上がると採用の時給も上がって雇えない」。東京都内を中心に菓子店3店舗を運営する中小企業の男性社長(40)はため息をつく。従業員はパートら5人。小麦など原材料価格は上がり続け、包装用紙は昨年比1.5倍だ。商品の値上げを検討するが、「消費者に値上げを受け入れてもらうためにも最賃は引き上げるべきだけど、うちの経営体力がもつか綱渡りだ」と不安が尽きない。
日本商工会議所の調査では、現在の最賃額が負担になっている中小企業は65.4%。特に「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる飲食・宿泊、介護・看護、小売り、運輸などのコロナ禍が直撃した業種は80〜90%が負担を感じており、業種による偏りが激しい。
最賃は「早期に全国平均1000円」を目指す政府の方針により、2016年からコロナ禍の20年を除いて3%超の引き上げが続いた。岸田政権も目標を引き継ぎ、参院選では日本維新の会を除く与野党が引き上げ自体に賛成している。
厚生労働省の調査では、最賃引き上げで自らの賃金が影響を受ける労働者の割合は、12年度の4.9%が21年度に16.2%に増えた。「経営者は厳しくても引き上げが重要だと分かっている」(中小企業団体幹部)との声も出てきた。
◆「産業別」の引き上げ案も
業績が厳しい企業の負担を抑えつつ引き上げを続けることはできるのか。有識者からは「産業別」の最賃を活用する意見が出始めた。労使の申し出により通常の最賃より高い水準で設定できるが、現在は形骸化している制度だ。医療従事者などでつくる労働組合「日本医労連」が今年、看護・介護職で新設を目指したが、労働者数の要件を満たしていないなどの理由で却下された。
最賃について、日本総研の山田久氏は「今年だけでなく今後も引き上げを続けることが重要」と強調する。具体策として産業別に最賃を議論する学者と労使代表による会議の立ち上げを提案。「この会議が業界の状況に合わせて産業別の引き上げ額を決めるようになれば、コロナ禍などで厳しい状況の業界は回復後にハイペースで引き上げるなど、柔軟な対応ができるようになる」と説明した。
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